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双日アカデミー特別セミナー 落合陽一氏に聞く

発想から新たなビジネスモデルを生み出すために

今回、双日アカデミーはメディアアーティスト、大学准教授、企業経営者、政府委員など、さまざまな顔を持つ落合陽一氏をゲストにお招きし、「発想をどうカタチにしていくか」というテーマでお話しいただいた。出口が見えないデフレ経済のもと、急速な人口減少と超高齢化社会に直面する我々は、何を起点に発想し、どのような行動をとるべきか。落合氏の言葉から紐解いていく。

<イベント内容>
双日アカデミー
テーマ 「発想をどうカタチにしていくか」
場 所 双日東京本社

イノベーティブな社会を築くための4つの条件

この日、東京本社の会場に集まったのは200人を超える双日社員たち。サテライト中継された大阪会場も合わせれば、総勢約300名の社員が落合氏の言葉に耳を傾けた。

日本が直面しつつある急速な人口減少と超高齢化社会に対応するには、AIやIoT、ロボティクスなど、多様なテクノロジーの活用が欠かせないのは多くの識者が指摘するところだ。しかし落合氏は、これらのテクノロジーがもたらす恩恵を阻むものが存在すると切り出した。

それは「デジタル化以前の古い常識」と「領域を隔てる分断」、変革に対する「スピード感の欠如」だ。

落合氏は、2015年に筑波大でデジタルネイチャー研究室および自身の研究成果を社会実装するPixie Dust Technologiesを起業。大学など、学術研究機関が生み出す前途有望な「発明」がスムーズに民間に転用されず、社会課題の解決につながっていない現状に危機感を抱き、一度筑波大を退職した後再着任し、2017年に筑波大学内に民間資本を活用した「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を立ち上げた。

ベンチャー投資市場から資金調達をしているピクシーダスト社が研究室で生み出された知的財産(大学の職務発明)を利用する権利を得る代わりに研究者(この場合、落合氏自身)の人件費を負担。さらに大学に同社の新株予約権を付与するというスキーム成立させたのだ。

これにより、これまで大学発ベンチャーの立ち上げにつきものだった権利配分や、ライセンス締結にまつわる交渉や事務作業も不要になり、事業化のスピードが格段に上がったという。

すべては、旧来の発想から脱却し、潤沢なベンチャー投資市場に目を向けなければ実現できなかったスキームといえるだろう。

落合氏は上記に挙げたようなメディアアーティストとしての経験や経営者としての自身の経験、研究者としての活動経験を踏まえ、イノベーティブな発想をいちはやく社会実装するためには、

(1)時代のインフラに合わせ、発想のフレームワークそのものを変える
(2)限界費用の低いデジタル資源を活用し負担がかからない規模ではじめる
(3)研究レベルではなく、今使えるテクノロジーを積極的に活用する
(4)仮説・実行・検証のサイクルを高速に回すためのコミュニティを作る

の4条件が必要だと説く

これらの4つの条件に当てはまる先行事例として、「xDiversity(クロス・ダイバーシティ)」プロジェクトを紹介。その取り組みの中でオーケストラとのコラボレーションで聴覚の多様性を触覚提示で補完する枠組みや車椅子の自動運転プロジェクト、先天性四肢欠損障害を持つ作家、乙武洋匡氏が、機械学習によってインテリジェント化された3Dプリンタ製の義足で歩行を目指す取り組みなどを紹介した。JST(科学技術振興機構)のCREST事業で展開されているxDiversityのプロジェクトは、ほかに3人の研究者が参画し、代表研究者の落合氏が主導的役割を果たしている。

さらに海外の事例として、認知症患者に安価なタブレット端末を配って情報発信や消費行動を促し、認知症の症状を緩和させることに成功したイギリスのプロジェクトや、各種センサーとタブレット端末の活用によって、1人で40床から50床もの夜間見守り介護を可能にしたオランダの事例などを紹介。日本でも今後20年かけて、こうした取り組みを増やしていくべきだと指摘。

開発のポイントは、生活者や現場で仕事にあたっている人々の声を聞き、彼らが継続して使い続けられる仕組みや継続的な開発モデルやビジネスモデルを構築すること。なぜなら緩んだ眼鏡のねじを自分で締め直すくらいの簡単な仕組みでなければ、縮小する社会のなかで維持できなくなる可能性が高くなるからだ。

「金継ぎ」的発想をヒントに高付加価値社会を実現する

さらに落合氏は、日本が高付加価値な社会へ転換するためには、ハードウェア売り切り型のビジネスモデルからの脱却とヨーロッパ型のブランドモデルや西海岸型のプラットフォームモデルの分析と日本風の再構築が不可避だと説く。

世界には、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)以外にも、ライドシェアのUberやネット映像配信のNetflix、eコマースのアリババなど、プラットフォームビジネスで莫大な収益を上げている企業がいくつもある。しかし現在、日本には海外の成功事例に比類するプラットフォームビジネスが見当たらないのは、デジタル革命後、製造業型のビジネスモデルからの転換がうまくいかなかったからだ。政策と技術革新の接続という観点では中国のハードウェアにも遅れをとっている。

しかし、得意のハードウェア製造技術や日本風の現場技術と次世代の高速無線通信技術5Gを組み合わせれば、日本にも再起するチャンスはあると落合氏は見ている。

たとえば、エアコンなどの家電製品、自動車、自転車、音楽プレイヤーなどの日用品やホームセキュリテイや見守り介護のためのカメラデバイスを、面倒な設定やメンテナンスなしに、安価な月額定額制でIoTサービス提供するなど、これまでにない新しいビジネスが生まれる可能性が一気に高まるからだ。そういった高速な無線網に接続された社会実験を行うスマートシティの構想は実現の前段階にあり今ビジネスモデルを構築すべき時代であると落合氏は考えている。

しかし、こうしたビジネスモデルを成功させるには、利便性や低価格を上回る付加価値が重要だ。落合氏は、日本の「金継ぎ」が発想のヒントになると説く。

金継ぎとは、壊れた陶磁器を漆と金属粉で繕う日本の伝統技法だが、単に壊れた陶磁器を修理するだけが金継ぎの役割ではない。なぜなら金継ぎは、ハードウェアとしての機能が失われた陶磁器を、必ずしも修繕には必要ない金粉や銀粉という高付加価値な「ソフトウェア」を導入することで、壊れる前よりも美しく、魅力的な器に生まれ変わらせる技法でもあるからだ。

こうした金継ぎ的な発想によって、新しいデジタルテクノロジーと高度なマニュファクチャリング技術を融合させることができれば、高級機械式時計や富裕層向けの金融ビジネスなど、高付加価値ビジネスで世界的知名度を誇るスイスのような国に生まれ変われることも不可能ではないかもしれないという。価値を蓄積するためのデザインが必要で、そのことに本気で向かい合わないといけない。

そのためにはまず、長期にわたるデフレ経済によって「安さ」や「利便性」のみに偏ってしまった価値観を正し、優れたアートや工芸品の中に潜んでいるような、見えない価値を見出し、育む能力を取り戻す必要がある。ブランド価値の蓄積とハードとソフトの融合による生活への浸透、それが日本型イノベーションを創出するための重要な一歩になるはずだと落合氏は語った。

商社ならビジネスモデル付きの課題解決を提示できる

中央省庁や地方自治体は、すでに教育や医療、経済、防災など、さまざまな課題をリストアップしているが、財源は限られており、民間の力で解決すべき課題も少なくない。ここに商社にしか担えない役割があるのでは、と落合氏はいう。

商社はこれまで「必要なモノを必要なタイミングで必要な場所に素早く届ける」ことによって、企業に「意思決定フローを速く回す仕組みを提供」し、数々の産業界の成長を支援してきた。

しかし今後は、人工知能や3Dプリンタなど、テクノロジーの発達に伴って、消費者の志向もマス生産と個別生産の間へと移り、課題解決に求められる粒度も、地域格差解消や障がい者支援など、これまでのビジネスの価値観では注目されなかった、より小さな課題にも向けられていくだろうと落合氏は予測。

こうした領域に、もし企業や業界の事情に精通し、課題を認識する力に優れ、ビジネスを立ち上げ、横展開することを得意とする日本の商社が参入し、ビジネスモデル付きで解決策を提示するようになれば、世界的にも希有な存在になれる可能性があるのではないか。

なぜなら、日本以外の先進国もいずれは少子高齢化社会を迎え、国力の低下に苛まれる日に直面するからだ。それまでに日本が超高齢化社会に対応し、誰もが暮らしやすい豊かな社会に移行できればそのノウハウを他国に輸出することも可能だろう。

こうした状況を作るためにも、今から多様性ある組織づくりに尽力すべきと落合氏はいう。性別や国籍にとらわれないことはもちろんだが、商社自身が、大学、大企業、ベンチャーなど、異なる志向や文化を持った組織に飛び込んでイノベーションのスピード感を掴むのも面白い試みになるのではと。

——話題は最先端の現代アート、日本文化、ビジネス、世界情勢へと縦横無尽に跳躍し、予定時間を超えても熱が冷めることはなかった。ここですべてを再現できないのは残念だが、落合氏のメッセージは、ビジネスの最前線に立つ双日が、今まで以上に多様性に富んだ課題解決型組織になることを迫るものだったように思う。これから双日の真価が問われるのは間違いなさそうだ。

<落合陽一氏プロフィール>


©蜷川実花
メディアアーティスト。1987年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。
2015年World Technology Award、2016年Prix Ars Electronica、EUよりSTARTS Prize受賞。Laval Virtual Awardを2017年まで4年連続5回受賞など、国内外で受賞多数。
直近の個展として「質量への憧憬(東京・品川、2019)」など。
近著として「日本進化論(SBクリエイティブ)」、「デジタルネイチャー(PLANETS)」、200部限定の初写真集「質量への憧憬(amana)」

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